ランチャテーマ8.32【Lancia Theme 8.32】音がいいのは七難隠す
何年か前に仕事でお付き合いのあるD商会さんへ打ち合わせでお邪魔したときのこと。
D商会さんは自動車販売・修理を生業とされている桑名では老舗の車屋さんです。
その日もD商会さんのお得意先が新車を購入されたので、
社名を車に入れたいがどうしたらいいだろうと相談を受け、
社長とお得意先を交えてADバンを囲んで相談。
二人が話し込んでいる間に写真を撮ろうとカメラをかまえ後に下がると、
目の隅に見慣れないワイン色のセダンが・・・・
「ランチャテーマか」
あまり大振りのセダンに興味がないので気にせず撮影を続けていた。
メモをしようとランチャのトランク置いた手帳に手を伸ばす・・・
「何だこの縁取りは?」
トランクの二回りほど内側に妙な縁取り?
「格納式スポイラー?」
斜めに突き出た2本の排気管?
もしや?
「そのテーマはただのテーマとは違うんだよテーマとは♪」
笑いながら社長が見ている。
そう8.32だった!
【ランチャテーマ8.32】
ジュウジアーロ先生デザインの丹精なセダンにこともあろうにフェラーリ308のエンジンを搭載してしまった!
俗に言う“羊の皮を被った狼”
誰も止めるやつはいなかったのだろうかのセダンである。
8.32だと分かれば話は別仕事そっちのけモード全開。
さっそく近くの後部ドアを開けてみると・・・・・・・
後方視界確保のために倒れていた枕が音も無く立ち上がってきた・・・・・・・・ブラーヴォ!
「トランクのスポイラー運転席のスイッチで操作できるよ」
社長のアドバイスに従いON。
リヤスポイラーが・・・・・・カッカッカッカッガ派手な音を立てて途中で止まってしまった・・・・イタリア万歳♪
本物のアフリカンローズウッドとイタリア高級家具メーカーポルトフラウが仕立てた涙モノのインテリア・・・
確かに涙モノ・・・目が痛い!
室内の皮という皮がひび割れ捲れて見事に同じ色のガムテープで補修されている・・・・・
その手触りたるや乙女の頬のような滑らかを誇ったであろう椅子も、
吸血鬼に襲われたおばさんのごとく汚れしわしわである・・・・・・・
当時諸経費を足せば軽く1000万を越える超高級車である。
屋根つきのガレージにて保管。
使うのは夜のパーティーに限定と取扱説明書に明記してあるはず。
なのに青空駐車だったのか・・・・・・・・。
「乗ってきていいよ。早いよ♪」
「え~このガムテープ地獄をですか?」
「いいからいいからエンジンかけて」
「フワーンンンンン」
工場内に鳴り響くえも言えぬいい音♪
そうかフェラーリのエンジンか・・・・・・
ガムテープ地獄に乗り込みドライなタッチのクラッチを踏み込みギヤを入れ道路へ・・・・
高級セダンなのにマニュアルってとこがイタリアだなと思いながら前があいたので深くアクセルを踏み込んでみる・・・
「フフォア~アアアアアア~ンンンン」
いい音♪
走り出したら社長が・・・・「松岡さ~ん25万でいいよ~」って
内装はガムテープ地獄。
塗装は既に死んでいる。
美味しい時期はとっくに過ぎたタイヤ。
見るも無残なシート。
動かないメーター。
出るのかで無いのかどっちなんだの中途半端スポイラー。
妙にべたつくハンドル・・・・・・
「25万?いらんよこんな・・・・・フォア~ア~~~ン♪」
「買おうかな・・・・」
“音がいいのは七難隠す”
「そういや社長8.32はどうなりました?」
「まだあるよ」
「え!まだあるんですか?」
「第二駐車場に置いてあるよ」
見てこよう・・・・・
つわものどもがゆめのあと・・・・・・
「25万でいいよ♪」
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